前置き 1992年頃、大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージを若干書き直した作品。

東京ド−ムのトイレ不足

 先日、東京ドームに巨人・阪神戦を見に行きました。両チームとも今年は首位争いを演じているためか球場は超満員でした。
 5回の裏のジャイアンツの攻撃が終わったとき、急に便意をもよおしトイレに向かったのですが、そちらのほうも超満員で各個室の前には長蛇の列ができていました。
 別の便所もどうせ混んでいるだろうと思い、私は列の最後尾に並び、自分の順番が来るのをひたすら待ち続けました。
 結局のところ個室に入れたのは並び始めてから20分ほどたったころで、大急ぎで用を済まし、猛ダッシュで自分の席へと帰りました。
 トイレに行く前には0対1で負けていた阪神が逆転してました。劇的な満塁ホームランが飛び出したらしいのです。
 その後、両チームともヒットが出ず、三者凡退が繰り返され、結局そのまま阪神が逃げ切りました。
 私は激怒しました。その試合の一番のハイライトというべきシーンをトイレの順番待ちで見逃したのです。金返せと大声で叫びたいくらいでした。私と同じように悔しい思いをした人はかなりいたはずです。
 こんなことで野球ファンを失望させないでほしい。
 東京ドームのトイレが少なすぎるのです。
 私は東京ドームに設備の改善を断固要求します。
 しかし、ただ「改善しろ」と叫び何ら対策案を提示しないようでは国民からそっぽを向かれた革新政党と同じです。私は自分なりに考えた東京ドーム改革案を以下に述べてみます。

 東京ドームの内部に便所の数を増やすことは絶対に不可能です。球場に一度でも足を運んだことがある人ならご存知でしょうが、ドーム内に余分なスペースなどはまったくありません。
 それならトイレをドームの外に作ればよい、と思うかもしれませんがそれも無理です。東京ドームのある後楽園は、ただでさえ狭いのに、遊園地やホテルなどの施設も同居しているため、便所を設置する空間は一切ありません。
 結局、客席のシートを便器に替えるしか手がないのです。
 そうと決まれば、五万五千の客席をひとつ残らずすべて便器に替えてしまうのがいいでしょう。
 その場合、客席すべてを同じ便器にしてはいけません。当然、入場料によって差別化を図るべきです。
 一番料金の高いバックネット裏のシートには、一流ホテルの最高級ルームにあるような高価な洋式便器を設置しましょう。客は高い金を払っているのですからそのくらいの便器に座る資格があります。
 その横に広がる内野席には一般家庭にあるTOTOの洋式便器あたりがよいでしょう。入場料に見合った便器といえます。
 同じ内野席でも比較的料金の安い外野席寄りのシートには洋式便器は必要ありません。しゃがんで用を足さねばならない和式便器で十分です。便器に座りたい人はもっと金を出せばよいのです。
 最後に、はした金しか払わずに野球を見に来ているずうずうしい奴が居座る外野席ですが、そこには水洗便器なんか設置する義務はありません。汲み取り式の和式便器でもあてがっておけばよいでしょう。
 さて、試合中は、バックネット裏とその脇の内野席の観客達は洋式便器に腰掛けながら野球観戦をすることになります。
 客の中には下半身に何かをはいたまま便器に座るのはどうも抵抗がある、慣れてない、しっくりいかない、という人も多いことでしょう。そのような方は、いつも便所で行っているようにズボンやスカートを脱ぎ、パンツを足元まで下げたままで野球を観戦なさってかまいません。
 こうしておけば、試合中に便意、尿意をもよおしてきても、席を立つ必要はなく、ズボンやスカートを脱いだりパンツを下げたりすることなく、その状態のまま用を足すことができます。非常にありがたいことですね。これでホームラン、好プレー、珍プレーなどの見せ場を見逃して地団太を踏むことはなくなります。
 原則的には試合開始から終了まで席を立つ(便器を離れる)必要はまったくありません。しかし、ウンコをした後にトイレットペーパーが切れていることに気付いた場合で、売り子が近くにいなかったという時には売店まで紙を買いに行く必要があります。
 その際には、ウンコがお尻から完全に出きったことを手で肛門を触ってしっかりと確認してから便器を離れてください。出たと思っていても長さ30センチほどの便が肛門から垂れ下がったままということがよくあります。この状態のまま売店に向かうと、周りの観客に「あいつはシッポがある」などと言われてしまいます。
 水洗便器の唯一の欠点は詰まることです。下痢をしていてトイレットペーパーを使いすぎたり、超硬いウンコをしたときなどに便器は詰まります。
 球場で自分の後ろに座っている観客が便器を詰まらせてしまうと、水を流したときに便器から水と汚物があふれ出し、すぐ下のあなたの所へ流れ落ちてきます。そんな場合には、逃げる必要はありません。便器に座った腰に全体重をかけて足を浮かせば、後ろの人のウンコ混じりの汚水があなたに触れることはありません。
 内野席の客席(便器)だけでも数は何万とあります。となると詰まってしまう便器の数は何百にも及びます。そうすると、ひとつの便器から流れ落ちた水とウンコは、他の便器からあふれ出た異なる風味のウンコ水と合流し、洪水となってグラウンド内に流れ込みます。
 でも心配いりません。東京ドームのグラウンドは人工芝です。汚水の除去は容易です。各イニングの終了時にバキュームカーをグラウンドに入れ、ウンコ水の吸引を行います。グラウンドがウンコだらけでコールドゲームとなってしまうようなことは絶対にありません。
 もちろん回が進むごとに人工芝は茶色がかってきます。いくらイニングごとにバキュームカーでウンコを吸い取るとしてもグラウンド内は異臭が立ち込めます。
 選手はたまらないのですが、お客様が絶好のシーンを見逃すという不愉快な思いをしなくて済むので我慢してもらいます。
 座って野球観戦ができる洋式便器の内野席の場合はこんなもんでしょうが、和式便器の内野席と外野席の観客は、当然のことですが、便器をまたいでしゃがんだまま野球を見ることになります。足がつりそうだからといって立ってしまうと後ろの観客から「ばか野郎、見えねえよ! しゃがめ!」と罵声を浴びせ掛けられます。
 外野席と内野席の外野よりの観客はウンチングスタイルのまま1試合我慢しなければなりません。こちらの席でも、ズボンやスカート、パンツをはいたままでは落ち着かないという方は、普段通り、下半身スッポンポンのまま観戦してかまいません。
 外野席の利点は、水洗ではないために便器が詰まることがないことでしょうか。しかし、各シート(便器)の下にはウンコを貯めるタンクがありません。安い入場料しか払ってない連中にそんなタンクを設けてやる必要はないからです。
 そのため、各汲み取り式便器に出された大小便は前にいる人の便器の下や脇を通り、グラウンドへと流れ込みます。
 この点で水洗便器の内野席とまったく変わらない気がしますが、以下の点で大きく異なります。
 内野の場合は内野席の便器が詰まったときのみグラウンドに汚物が流れ込みますが、外野では出された糞尿すべてがグラウンドへ垂れ流しです。また、内野の汚物は水洗の水でかなり薄まっていますが、外野の場合は濃度100%の大小便(現物、原液)です。
 したがって、バキュームカーを投入しても外野ではタイヤがウンコでスリップして立ち往生してしまうだけです。ですから、バキュームカーでの吸引は、外野はあきらめ、内野だけ行うことになります。
 このためシーズン終了間際ともなると外野にはウンコの山がいくつも築かれます。
 プロ野球選手がユニフォームを泥まみれではなく、糞まみれにしてプレイしている姿は感動もので、この方式によって、毎年減りつつある野球ファンの数が増加へと転じることは間違いないでしょう。

どうです、みなさん。
 はたして東京ドーム当局は私のトイレ不足解消案を採用してくれるでしょうか。


作者の
コメント
このメッセージを書いて掲示板に発表した数週間後、どうせそこまでやるんだったら、ベースも便器に変えてしまう、つまり一塁便器、二塁便器、三塁便器、ホーム便器に取り替える案も盛り込むべきだったと非常に悔やみました。
(作者:フヒハ)

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