前置き 1992年頃、大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージ。

公衆便所に関するアンケート
  (財)日本公衆便所協会では、先日、10代から60代の男女10万人を対象に、公衆便所に関するアンケートを実施いたしました。有効回答率が5%にも満たず、一般の人々の公衆便所に対する無関心さに協会の理事長として私は怒りを禁じ得ませんが、そんなこと嘆いていても始まりませんのでとっとと調査結果を発表いたします。
  質問は「公衆便所をどう思うか?」です。
  答えとして最も多かったのは「汚い」「不潔」「臭い」というもので、この3つだけで全回答の90%以上を占めました。これらが一般の日本人が抱いている公衆便所に対する感情と考えてもいいかもしれません。
  その他の答えとしては「大都会の中のオアシスだ」「あの匂いの香水が化粧品会社から販売されないのはふに落ちない」といった明らかにギャグ狙いのものや、「自分の性的欲求を満たすことのできる唯一の場です」という、痴漢の方らしき方からの率直な御意見などがありました。
  もう一つ、「自分の能力を最大限に発揮できる異次元空間」という回答がありましたが、これはギャグ狙いなのか、趣味なのか、あるいは質問内容を勘違いされたか、非常に判断が難しいところです。
  それはさておき、アンケート結果からわかるように、ほとんどの人は「汚い」「臭い」といったマイナスのイメージを抱き、公衆便所に対して不満を持っているようです。しかしながら誰一人として何がどのように汚いのか、何がどのように臭いのかを具体的かつ客観的に答えた人はいませんでした。

  他人にとってはどうでもいい些細なことに対して不満をぶつぶつ言ってしまうということがよくあります。このことを如実に示す例を2つばかり挙げておきます。
  トイレの洗面台に髪の毛が一本くっついているのを見た途端に「こんな汚い所は嫌だ!」と叫んで公衆便所を飛び出してしまう人がいます。病的なまでの潔癖症といえます。このような人は別のトイレを下腹部を押えながら必死に探しますが、なかなか見つからず、我慢の限界に達する寸前にやっと見つけた公衆便所に駆け込み、髪の毛とはどう見ても異なる太くて若干カールした「毛」が大量にへばりついている便座に腰をかけて仕方なく用を足しているのです。
  こんな人がいるかと思えば、洗面台に髪の毛が1本くらいくっついていてもまったく気にすることなく堂々と立派に用を足して公衆便所から胸を張って出てくる人もいます。
また、こういう例もあります。
  利用しようとしているは洋式の便器の公衆便所ですが、便器につながっているパイプが折れていて便器内に水が流れません。ふたを開けてみると、便器の中は汚物がいっぱい。その汚物の最高峰は、ふたの裏で押しつぶされて平になっています。
  これをを見たとたん、「こんな汚い所は嫌だ!」と絶句して公衆便所を飛び出してしまう人がいます。こういう人は、近くに他の公衆便所がないため、仕方なく電車に乗って次の駅のトイレに行こうとするのですが、乗り込んだ電車が通勤ラッシュ時間であったために超満員。途中、電車が揺れたときに前にいたOLのハンドバックが自分の腹に食い込んでしまい、我慢しようとする脳の意志とは裏腹に下腹部はごく自然の営みを行ってしまうのです。
  とんでもない恥をかいて次の駅で逃げるようにして下車し、「便器の中がいっぱいなのは電車の中がいっぱいであるよりましだ」などという、自分しか通用しない格言を何度も口ずさみながら満員電車内で漏らしてしまったことを必死に忘れようとするのです。
  こんな人がいるかと思えば、同じく汚物であふれた便器を見て、「貯蔵容積5リットルほどの汲み取り式便所だと思えばいいじゃないか」とまったく意に介さず、ほんの僅かな隙間に高度なテクニックを駆使して用を済ませてしまう方もいらっしゃいます。こういうテクニシャンは、洋式便器のふたを閉めるとき、おもいっきり倒すと四方から汚物がはみ出てしまうため、どの程度の力でふたを閉じていいかという手加減を心得ておられます。

  このように、ある人にとっては我慢できないことでも、別の人にとってはまったく些細なことでしかないというのは、公衆便所に限らず、どんな世界にもあるのです。
  公衆便所に関するアンケートで得られた結果についても、こういった点を十分に考慮していただけると幸いです。


作者の
コメント
公衆便所の話はみんな大好きらしく、好評でした。
(作者:フヒハ)

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