前置き | 1992年頃大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージ。 |
「におい」の対処法 |
前回のメッセージでお約束したとおり、今回は排便をしたときの最大の悩みのひとつである「におい」についてお話しいたします。 便のにおいは、マニアを除き、誰でも不快に感じるものです。その悪臭を何とか抑え込もうとして、たくさんの防臭剤や芳香剤が開発され、販売されています。 ただし、どんなに優れた防臭剤や芳香剤を使っても大便のにおいを完全に消し去ることはできません。これは、深夜の駅のプラットフォ−ムに吐かれたゲロに、脇の下の汗の臭いを抑える「エイトフォー」をシューシューとスプレーしているのと同じことで、焼け石に水なのです(酒が入っているためか「深夜のゲロ」は格別に臭い!)。強烈な悪臭に対しては何をしても無駄なのです。 それではあきらめて我慢しなくてはいけないのでしょうか。 そんなことはありません。どんな難問にも解決策は必ずあるものです。 人間には5つの感覚(五感)があります。皆さん知っての通り「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の5つです。 この五感の中で「慣れ」に最も弱いのがにおいを感じる「嗅覚」です。 電車に強い香水をつけた女性が乗ってくると、居合わせた者は誰でも初めは不快になり顔をしかめます。しかし5分もたてばみんなにおいに慣れてしまい、車内が香水で臭いことなどすっかりと忘れてしまいます。別ににおいが弱まったというわけではありません。香水のにおいはすぐには消えないのです。次の駅に到着して乗車してきた人が不愉快な表情をするのを見れば香水女が相変わらず臭いことがわかります。 人間の鼻なんてそんなものです。嗅覚なんていい加減なものなのです。 この点が理解できれば、トイレのにおい対策も立てやすいですね。 え? まだよくわからない? ではそういう方のために、以下に具体的な例を挙げて説明してみましょう。 公園の奥に公衆便所がぽつんとあります。トイレの入口の前には犬の糞(フン)が落ちています。大型の犬がやったらしく、大きさは人間の大人のものと比べて遜色ありません。もうもうと沸き上がる湯気が、やったばかりであることを如実に物語っています。 その糞がとんでもなく臭いのです。10メートル離れたところにいても涙が出て、めまいがしてきます。 糞に近づきたくないのですが、そこを通らないと公衆便所に入ることができません。もれそうなので仕方なく息を止め、目をつぶって、糞の脇を走って通り抜けます。糞に最接近したときには意識を失いかけます。 こうして強烈なにおいの洗礼を受けた後やっとこさ公衆便所の個室に入ると、今度は和式便器のすぐ右横に、今回はおそらく人間のものと思われる大便が威風堂々と横たわっていて、やはり湯気がもうもうと上がっているのに気付きます。 普段ならそれを見てすぐにUターンをし、他のトイレへと向かうところでしょうが、もうこれ以上排便の我慢ができないため、そこで用を足さねばなりません。 しかしながら、落ちている大便の位置が悪すぎます。用を足す時のいつものスタンスで構えると、ちょうど右足で踏んづけてしまいます。 しかたがないので、右足はいつもより30センチほど後方にずらしてしゃがみます。 尻の位置は便器中央にもっていかざるをえず(こうしないと便器内に便を落とせない)、非常に不安定な体勢を強いられます。 こんな姿勢では出るものも出ません。また、このような状態を30秒も続けると腰痛が始まってしまいます。 腰の痛みに耐えきれず、どうにもならなくなって、本来右足を置くべき所にある便を排除しにかかります。 便を素手で拾って便器内に投げ込めればそれに超したことはありませんが、たいていの人はそんな勇気を持ち得ていません。普通の人は手にトイレットペーパーを何枚も重ね、それで便をつかみます。 その際、手にした便があまりにジューシーだったため、トイレットペーパーから汁が染み出てきて手が濡れてしまいます。 すぐに手のにおいを嗅いでみましょう。 意外なことにそれほど臭くありません。あまりににおわないため、あなたは手をしゃぶってしまうかもしれません。 なぜこんなことが起こるのでしょうか。拾った便が臭くないわけがありません。 そうです。公衆便所の前に落ちていた犬の糞によってあなたの鼻は十分なウォーミングアップを済ませており、便器横の便が臭いとは感じなくなっていたのです。 もし便所の入口近くに大型犬の臭い糞がなかったとしたら、あなたは個室内で気を失って倒れていたもしれません。 このことからわかるように、においなんて慣れでしまえばなーんも感じなくなってしまうのです。 「トイレが臭い」という客からの苦情が絶えずに困っている喫茶店経営者のみなさん。この機会に、ぜひともこの理論を応用なさってはいかがですか。 おっと、ちょっと待ってください。 私は、お店の前でデカい犬に糞をさせまくれなどとは申してません。早合点しないでください。 そんな野暮なことはせず、もっと科学的な方法を教えますのでそちらを実行してください。 まず、「ウンコの香り発生器」を最寄りのデパートで購入します。品切れの場合は取り寄せてもらうよう店員に頼んでおきましょう。一週間くらいで入荷されます。 香り発生器が入手できたら、どんなにおいが生み出されるか試し嗅ぎをしてみてください。強烈な悪臭を発生しなくてはなりません。そんじょそこらの犬の糞のにおいなんかでは駄目です。そんな普通のにおいじゃ役に立たないので返品し、もっと性能のいい装置に交換してもらってください。焼き肉を食って酒を飲んだ翌日に出るウンコの、あの一刻も早く水を流したくなる圧倒的な臭さが少なくとも必要です。 「ウンコの香り発生器」のパフォーマンスが満足できるものであることを確認したら、それを喫茶店のエアコン送風口の前に置きます。設置がすんだら発生器とエアコンの電源スイッチをオンにします。最初は弱めの設定にしておき、ゆっくりとにおいの濃度を高めていきます。 喫茶店内の客は、最初、眉をひそめたり、鼻をつまんだり、「何だ、このにおいは?」と言いたげな表情をしてあたりを見回すかもしれません。でも、においなんてすぐに慣れてしまいます。しばらくすると客たちは何事もなかったかのように再び本を読んだり、コーヒーをすすったり、チョコレートパフェを食べたりしはじめます。 香り発生器の濃度設定をさらに上げ続け、いよいよ最高濃度に達し、悪臭が店内に充満しても客は誰ひとりとして気付きません。あまりの心地よさにうたた寝してしまっている人さえいます。 やがて一人の客が便意をもよおし、トイレへ向かうために立ち上がります。 喫茶店のトイレは数週間前からまったく掃除をしていません。そのため便器には大量の便がこびりつき、便器の脇の床には泥酔客が吐いたのでしょうか直径25センチくらいのゲロがお好み焼きのごとく広がっています。便とゲロには多数の銀蝿が群がり、トイレのにおいは想像を絶する凄まじいものであることが容易に想像できます。 トイレのドアが開き、客が入って来ました。銀蝿がいっせいに宙に飛び立ちます。客はトイレ内の光景に一瞬唖然としますが、臭さはまったく感じないため、「まいっか」とつぶやいて平然と用を足しはじめます。 終わったらレバーをひねって水を流し、自分がいたテーブルへとそそくさと戻ります。 店長に「トイレが臭い」と文句をつけることは決してありません。 どうです、私の考え出したこのアイデア。 これを採用すれば、トイレなんか何年も掃除しなくたって客からの苦情は皆無です。 |
作者の コメント |
オリジナルのメッセージはストーリーが破綻していたためかなり手を加えました。まだ破綻しているか? (作者:フヒハ) |