前置き | 1992年頃、大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージを多少書き直した作品。 |
便器内の流し忘れ |
先日、仕事の帰りに立ち寄った居酒屋で飲み過ぎてしまいました。家に帰る電車の中で吐き気をもよおしましたが、車内では口を押さえて何とか堪えました。 電車が駅に到着すると猛ダッシュでアパートへ帰り、すぐさま共同便所に駆け込みました。 危機一髪で間に合いました。 よかった、よかった。 が、しかし、洋式便器の中に顔を突っ込んで思う存分吐いている最中、ふと、異変に気づきました。 自分の前にトイレを使った奴が流し忘れていたのです。 大きくて硬そうな大便でした。顔との距離は3センチと離れていなかったでしょう。 他人のウンコにあれほど顔を接近させたのは、近所のドーナッツ屋のトイレで用を足した後、水を流すためレバーをひねった際に手に何かついたので、何かな?と思って手を鼻に近づけてにおいを嗅いで以来1年ぶりのことでした。 ところで、便所に入って、「さあぶっぱなすぞ!」と気合いを入れて便器にしゃがんだときに先客の忘れものが便器内に大胆に横たわっていた、なんてことはあなたも経験があるでしょう。 そのようなとき、あなたは「ばかやろう! 流し忘れやがって」と、流し忘れた本人ではなく便器内に流し忘れられた物体に向かって怒鳴りながらレバーをひねっていませんか。 まったく大人げないといわざるを得ません。 流し忘れられた物体に責任はありません。流し忘れた奴が悪いのです。 ここはひとつ、レバーをひねった直後、急流とともに流れ去る不幸な物体に対して、 「あなたのせいじゃないのにね。かわいそうに。さよなら」と一言かけてあげるほどのいたわりがあってもいいじゃないですか。 ただし、「さようなら」の後に「じゃあまたお会いしましょう」と付け加える必要はありません。二度と会えるわけではありませんので。 水を流し忘れるような奴の残したものに限って、レバーをひねっても素直に全部流れてくれないものです。一部が便器にへばりつき、あくまでも自分の存在をアピールし続けます。 そんなのは無視して用を足してしまえばいいのですが、前に便所を使った奴が残したウンコと自分のがじかに触れ合うのは、なんとなく気が引けます。 自分の前にトイレを使用したのが、あなたが密かに憧れている異性であった場合は逆に嬉しいものですね。むしろ自分のほうから積極的にドッキングを試みたくなるでしょう。とりわけ、手も握ったことのない人だったら接触は感激ものですね。 ところが、あなたの愛する人は確かにトイレに入ったのですが、便器は使用せずにトイレットペーパーで鼻をかんだだけだった、なんてこともあり得ます。 あなたの大好きな人の前に便所に入ったのは顔を合わせただけで吐き気をもよおす大嫌いな奴で、便器にウンコをへばりつかせていたのは実はそいつだったってことも十分にあり得ます。 そんなことはつゆ知らず、あなたはわくわくうきうきしながら、そいつのウンコと便器内で愛のランデブーを交わしてしまうのです。 流し忘れの便にはくれぐれも注意しましょう。 |
作者の コメント |
パソコン通信の掲示板に初めて書いたオリジナルのメッセージでは、この文章の後に、高校生が便器から「流し忘れ便」をすくって学校に持っていって昼食時にクラスメートに公開するという冒険談が続いていましたが、あまりに不潔な話だったので今回の改訂版では全面的に削除しました。 もちろん、掲示板においては、このメッセージに対するコメントは誰からも書かれず、みんなから完璧に無視されました。 (作者:フヒハ) |