前置き 1992年頃大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージ。

便器の色

  便器の色というのは「白」と相場が決まっていますが、この点について疑問に思ったことはありませんか。どうして白なんだ、と。
  白には清潔なイメージがあります。汚いと思われがちなトイレに少しでもきれいな印象を加えるために白が使われている。恐らくこれで正解なんでしょうが、ひとつ大きな問題があります。
  便所を使うだけという人にはなかなか理解できないでしょうが、掃除をする側にとっては白というのは最悪な色なのです。わかりますね。便器が白ではすぐに汚れが目立ってしまいます。これでは掃除を頻繁にしなくてはならず非常に大変です。
  トイレ利用者がいつも普通のウンコをしてくれればいいのですが、ときには何を食ったか知らないが粘着力にやたらと富んだ便を便器へ落下させる人がいます。こうした糞は水のたまった所に落としてくれればまだ救いなのですが、便器に深く腰掛けない人は水のない部分に着地させてしまいます。こうなるともちろん便器に完璧にこびりつきます。レバーをひねって水を流しても表面が洗われるだけでウンコは残ったままです。何度レバーをひねろうと消えてなくなることは決してありません。
  思いやりのある人だったら、便器にへばりついた便の塊をトイレットペーパーでぬぐってから水を流してくれるでしょう。しかし、多くの人はそうしようとして手に直接ウンコがついてしまったという苦〜い経験があるため、知らん振りをしてトイレから出ていってしまいます。
  中には見ただけでは手に本当についてしまったかどうかがわからず、指のにおいを嗅いで初めてウンコに触れてしまったことに気付く人もいます。また、手を見もせずに指を鼻の頭に当ててしまい、その瞬間指にくっついていたウンコが鼻に移ってしまう人もいます。その後に手を見て「なんだ、手にはついてないじゃないか」とつぶやいき安心しますが、その日は一日じゅう、世の中が異様に臭くなったように感じて過ごすことになります。
  いずれにしても、ウンコが便器にへばりついてしまった場合は掃除をする人は大変です。
  日本はいま急速に高齢化社会を迎えつつあり、労働者不足がますます深刻になりつつあります。若者の嫌う3K職の典型ともいえるトイレ清掃員の確保はますます困難になることが大いに予想されます。
  今後、子供の人口が増えることは考えられず、また、若者が3Kの仕事を好んでするようになるとも思えません。
  このような絶望的状況において「こびりつき便」の問題はどのように解決すればいいのでしょうか。超難題です。
  私はこの問題に対する解決法を長い間探求し続けてきました。そして先月、とうとう画期的な解決策を見つけ出すことに成功しました。
  結論を先にいえば便器の色を変えるしかない、ということです。
  ほとんどの便器の色が白だから問題だったのです。白じゃなければこれほど深刻な問題とはならなかったのです。
  では、便器を何色に変えればいいのでしょうか。
  この点について、私が教鞭をとっている国立大学で生徒約1000人に聞いてみました。回答は3つに絞られました。全員が「緑色」「黒色」「茶色」のいずれかを答えたのです。それ以外を挙げた者は皆無でした。
  それでは学生が答えた3色ひとつずつをじっくりと考察していきましょう。
  まずは「緑色」。緑というのは、アメリカやニュ−ジ−ランドの見渡すかぎり広がる放牧地帯を思い浮かべます。
  このような緑一色の世界で心置きなくおもいっきりウンコをしてみたい!
  大学は都心にあり、この回答をした学生の気持ちは十分に理解できます。しかし、今はトイレを利用する側ではなく、掃除をする人の立場で物事を考えなければならず、この答えは不適切です。緑色という答えは100点満点で30点といったところでしょうか。外れです。
  では、次の黒色に進みます。
  みなさんは小学生のころ、図工の時間に絵の具で絵を描きました。その際、いろいろな色の絵の具を混ぜ合わせてどんな色になるかを試したはずです。そして、黒の絵の具というのは他のどんな色と混ぜても黒色のままであることを学びました。
  その経験をもとに便器が黒ければどんな色のウンコがへばりついても黒にしか見えないのではないかと考えたのですね。
  非常にいいところに目をつけました。しかし、残念ながら便器と便の場合は絵の具のように色は混ざりません。それは黒い板に茶色のペンキを塗るのと同じ理屈です。便器の色が黒であっても(白ほどは目立ちませんが)茶色っぽいウンコの色が見えなくなることはありません。これも残念ながら不正解です。
  それでは第三の回答である茶色はどうでしょう。
  茶色を選んだ理由は、ウンコの色と同じと思ったからでしょう。同じ色なら色が目立たず掃除をする必要がない。そこまでの発想はすばらしかった。しかし、ウンコの色が茶色と考えるのは素人のあさはかさといわざるをえません。
  人間にはひとりひとりさまざまな個性があるように、ウンコにもひとかたまりひとかたまりさまざまな色があります。同じ人がひねり出したウンコであっても食べたものによって色は異なってきます。便の色が茶色だなどとは絶対に断言できないのです。ある人のウンコは限りなく黄色に近かったり、またある人の便は切れ痔を患っているため真っ赤だったりしするのです。三つ目の答えである茶色も正解ではありません。
  結局は正しい答えを言い当てた学生はいませんでした。
とはいえ、さすがは超難関の入学試験を突破してきた生徒たちです。間違えるとしたらこの色だろうと私が考えていた答をすべて挙げてくれました。立派なものです。
  さて、紙面も少なくなってきたのでここいらで正解を述べておきます。
  正解は「カメレオン色」です。
  皆さんもよくご存じのように、カメレオンという生き物は自分の体の色を周囲の色に合わせることができます。緑の草むらでは体を緑に変えます。黄土色の岩の上にいるときには体を黄土色に変色させます。こうすることによって敵の目を欺き、自分の身を守っているのです。
  これを便器に応用しない手はありません。
  もちろん便器が自分で勝手に色を変えるわけがありません。外から科学的な力で色を変えてやる必要があります。
  まずは、便器の内側に、非接触で色を見極めることができる赤外線センサーを取り付けます。センサーから発せられた赤外線は便器内に落下してきたウンコに当たり、反射してきた一部の赤外線をセンサーが感知して色に関するデータを取得します。データはすぐさまトイレの隣にあらかじめ作っておいた色解析室に光ファイバーケーブルを通して送信されます。色解析室には色彩の専門技術者が常時待機しており、送られてきたデータから便器内に落とされたウンコの色をスーパーコンピューターで解析し、便器に便と同じ色に変色するよう命令を出します。
  こうしておけば便所でいかなる色の用を足そうと、便器が便の色とまったく同じに変色するため、一目見ただけでは汚れているようには見えなくなり、便器を掃除をする手間が省けます。
  これで人手不足の問題は一気に解決します。
  私はこの発見を近々特許局に申請しようと考えています。


作者の
コメント
あまりにくだらないためノーコメント。パソコン通信の掲示板ではコメントを書いてくれる人はいませんでした。
(作者:フヒハ)

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