前置き 1992年頃、大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージをインターネット時代に合わせて書き直した作品。

公衆便所に描かれた絵
  私にはアメリカ人の友人がおります。名前はピーターといい、身長が183センチ、ルックス抜群の金髪の男です。ミシガン州立大学で日本文学を専攻して来日し、目黒にある英会話学校で先生をしています。もちろん美貌のために女生徒にはモテモテです。彼氏にしたい多くの若い日本人女性がいつも群がっています。ピーターにとってこの国は天国に思えるでしょう。
  そんな彼にも日本での不満が一つあります。公衆便所でよく見かける、あの卑猥な落書きです。
  落書きは文章と絵に分類できます。文章の落書きでは、「姦」だとか「淫」とかいった難解な漢字がやたらと多用されます。日本人なら読めばなんとなくわかる、しかし自分では書けないという漢字が多のです。
  外国人が数年間日本語を勉強したら、多少の漢字は読み書きできるようになるでしょうが、公衆便所の落書きの漢字難易度は高すぎます。理解不可能です。
  このため、日本にいるすべての外国人は、公衆便所で落書きを見ても、文字(漢字)は読まず(読めず)、絵だけ見ることになります。
  私の友人、ピーターによると、外国人が唯一理解できる落書きである卑猥な絵のレベルが「Too low!!(低すぎる)」らしいのです。それが日本の気に入らない唯一の点だということです。
  一般に、人物の絵を書こうとすると顔はどうしても自分に似てしまうものです。男子便所の落書きは恐らく男性が書いているでしょうから、ピーター曰く、男の裸体像はまだ「Acceptable(許せる)」ということです。
しかし、女性の人物像は「Disgusting(吐き気をもよおす)」という。
  当然でしょう。どんなに美しい女性裸体像が描かれていようと、その顔が公衆便所に卑猥な絵を書く変態男の顔だったらやっぱり不気味で嫌ですね。
  ピーターは、しかたがないので顔の部分を手で隠して観賞しています。それでも満足がいかないときがあり、いちいちマジックで顔を書き直さなければならないから大変だ、とこぼしています。そんな絵ばっかりなのでマジックを頻繁に買うことになり、その費用もばかにならないと不平を述べています。
  このアメリカ人は、日本に一体何をしにやって来たのでしょうか。
  私は何度もピーターとの友人関係を破棄しようかと思いましたが、彼から「You are my true friend(本当の友達はおまえだけだ)」といわれ続けると、もしかして真の親友を失ってしまうのではないかという不安に襲われ、いつも私のほうからピーターに電話をかけてしまうのです。
なんとかすべきでしょうか。

コメント
ピーターとは、しばらく連絡が途絶えていたのですが、先日、「お世話になりました。無事アメリカに帰国しました」という手紙がミシガン州立刑務所から送られてきました。


作者の
コメント
このメッセージに対する反応は何もありませんでした。
(作者:フヒハ)

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