前置き 1994年3月27日に投稿したメッセージ。オリジナルのタイトルは「アメリカから無事帰国いたしました」であったが、内容にあわせて変えた。

同義語には注意を払うべき

 私がワシントン、ニューヨークに出張している間に、「Pへの道」のレベルが一気に落ちてしまったようです。こうなってしまった理由はいくつか考えられますが、最大の原因は私がメッセージを投稿しなかったためであるというのは明白です。
 そこで、私はこの責任を痛感し、帰国したばかりで時差ボケの頭ではありますが、メッセージをひとつだけ書くことにいたします。

 今回の出張にはノート型パソコンを持って行きました。仕事で使うわけではないのですが、アメリカ滞在中に小説をひとつ書いてやろうと考えたからです。
 ホテルでの暇は充分にありました。しかし、全然書けませんでした。いいアイデアがまったく浮かばなかったからです。
 そのかわりと言っては何ですが、ダウンロードしてあったが今まで見る機会のなかった「Pへの道」の初期の書き込み、および他の会議室のメッセージを大量に読むことができました。これらはフロッピーディスク数枚にコピーしてアメリカに持って行っていたのです。
 今回、目を通したメッセージの数は全部で3000を超えました。非常に疲れました。
 読んだ後に痛切に感じたのは、誤った語句を使用している人がかなりいるということです。さすがに「Pへの道」にアップされたメッセージは文学賞への応募者が書いただけのことはあって、他のコーナーのメッセージに比べると語句の誤使用が格段に少なかったですが、それでも目を覆いたくなるような間違いがいくつかありました。単語によっては、何人もの人がまったく同じ間違いをしているという例もかなりありました。おそらく、他の人が使っているから正しいのだろうと勝手に思い込み、そのまま自分のメッセージでも使用してしまっているのでしょう。
 少しでも疑問に思ったら、そのつど国語辞典や漢和辞典にあたるべきです。面倒くさいと思えるかも知れませんが、りっぱな文章を書こうと思ったら絶対にそうすべきです。特に「Pへの道」に書き込んでいる人は、将来はプロ作家になろうと考えているはずですので、努力と時間を惜しまずに辞書をひきまくってください。
私の読んだログの中で特に目だった間違いというのは、「語句の選択」に関するものです。文脈、あるいは文章の中で最も適した語句を使わずに、その同義語でごまかしてしまっているのです。同義語ですのでまったくの間違いとは言えないかも知れませんが、プロ作家になるのが夢ならばそこまで気を配るべきです。
 「同義語」とは、言うまでもなく「同じ意味の語」です。しかし、だからといって同義語を使ってもかまわないということにはならないのです。同義語というのは意味は同じでも、必ずニュアンスの違いというのがあるからです。
 この説明ではよく分からない人もいるかと思いますので、具体的な同義語の例をひとつだけ挙げておきます。
 「大便」「ウンチ」「ウンコ」「クソ」「フン」「糞便」というのはすべて同義語です。つまり、これらの意味は全部同じです。しかし、だからといって、どれを使用してもかまわないということにはなりません。換言すると、入れ換えても違和感なく通じるというわけでないのです。
 これを有名な小説の一部を引用しながら具体的に説明してまいります。

 日曜日の日暮れ時、公園の砂場では3歳くらいの女の子がひとりで遊んでいました。すぐそばのベンチにはお母さんが座っています。
 女の子はお母さんに向かってたどたどしい口調で言いました。
「ママ。ウンチしたい」
 お母さんは女の子の方に顔を向け、優しく言いました。
「まあ、由美ちゃん、ウンチしたいの?」
 女の子は言いました。
「うん、由美ちゃん、ウンチしたいの」

 本当にほほえましい光景ですね。
 ここで、「ウンチ」をその同義語である「クソ」に換えてみます。

 日曜日の日暮れ時、公園の砂場では3歳くらいの女の子がひとりで遊んでいました。すぐそばのベンチにはお母さんが座っています。
 女の子はお母さんに向かってたどたどしい口調で言いました。
「ママ。クソしたい」
 お母さんは女の子の方に顔を向け、優しく言いました。
「まあ、由美ちゃん、クソしたいの?」
 女の子は言いました。
「うん、由美ちゃん、クソしたいの」

 あまりほほえましい光景とは言えませんね。小説が台無しです。やはり、ここでは同義語だからといって「クソ」を使っては駄目なのです。
 次の例に行きます。

  とある有名大学の入学試験合格発表の場で、中年の男が叫びました。
「クソ! クソ! 今年もまた駄目だったか! クソ! クソ!」
 隣にいた妻らしい女が男に言いました。
「そんなに『クソ!』『クソ!』言って私に八つ当りしないでよ。また来年があるわ」
 こんな慰めの言葉では男の怒りは治まりません。
「また来年があるって言ったって、俺はもう29浪だぞ! クッソー!」

 受験地獄のある日本ではよくある光景ですね。ここで、「クソ」をその同意語である「ウンコ」に換えてみましょう。

 とある有名大学の入学試験合格発表の場で、中年の男が叫びました。
「ウンコ! ウンコ! 今年もまた駄目だったか! ウンコ! ウンコ!」
 隣にいた妻らしい女が男に言いました。
「そんなに『ウンコ!』『ウンコ!』言って私に八つ当りしないでよ。また来年があるわ」
 こんな慰めの言葉では男の怒りは治まりません。
「また来年があるって言ったって、俺はもう29浪だぞ! ウンコー!」 

 なんだかよく分かりませんね。ここでは、同義語だからといって「ウンコ」を使っては駄目なのです。この場合は、やはり「クソ」でなければ意味を成しません。
 次の例に行きます。

 男は目の前にいる美人の女に花束を差し出しながら言いました。
「お願いです。私と結婚してください」
 女は軽蔑のまなざしで答えました。
「フン! 誰があんたみたいな男と結婚するか!」
 男は土下座して嘆願します。
「お、お願いです。結婚してください」
「フン! あばよ」
 女はこのような捨てぜりふを残して行ってしまいました。 

 かわいそうな男の話ですが、ここで「フン」を「大便」に換えてみましょう。

男は目の前にいる美人の女に花束を差し出しながら言いました。
「お願いです。私と結婚してください」
 女は軽蔑のまなざしで答えました。
「大便! 誰があんたみたいな男と結婚するか!」
 男は土下座して嘆願します。
「お、お願いです。結婚してください」
「大便! あばよ」
 女はこのような捨てぜりふを残して行ってしまいました。 

 意味をなさないのはいいのですが、くだらないですね。この文章を例として取り上げたこと自体が失敗でした。
 めげずに次に行きます。

 スカトロ系SMクラブで、荒縄で縛られた男が言った。
「女王様のウンコは、見た目はいいし、においも抜群です」
 女王様が言った。
「当り前だろ! 私のウンコだ!」
 男が言った。
「味ももちろん最高なんですが、口当たりがちょっと・・・・・・」
 女王様はこの言葉に激怒した。
「何だと! 私のウンコにケチをつける気か!」
 バシッ! バシッ!
 女王様の鞭が男の体を叩く。
「うおおおぉぉぉ! もう我慢できん! 最高だー! イクー!」 

 ここで、「ウンコ」を「糞便」に換えてみましょう。

 スカトロ系SMクラブで、荒縄で縛られた男が言った。
「女王様の糞便は、見た目はいいし、においも抜群です」
 女王様が言った。
「当り前だろ! 私の糞便だ!」
 男が言った。
「味ももちろん最高なんですが、口当たりがちょっと・・・・・・」
 女王様はこの言葉に激怒した。
「何だと! 私の糞便にケチをつける気か!」
 バシッ! バシッ!
 女王様の鞭が男の体を叩く。
「うおおおぉぉぉ! もう我慢できん! 最高だー! イクー!」

 「ウンコ」の代わりに「糞便」という堅い語句を使うことにより、文章に若干の格調が出てきたような気がしないでもありませんが、さほど影響はないみたいです。このような例文では、どんな同意語を使ってもどうでもよさそうです。多分誰も最後まで読まないでしょうから。
 次の例に行きます。

 大学の入学式で、学長は理学部糞便学科の新入生達に向かって述べられた。

「理学部糞便学科への入学、おめでとう。君達は糞便学科の学生として、これからの4年間、糞便の研究に没頭することになる。是非とも精一杯がんばってくれたまえ。
 さて、非常に残念なことではあるが、世間には『糞便』と聞いても、何のことだかよく分からない人が今だにたくさんいる。したがって、これから君達は『糞便とは何ですか?』という質問を何度となく受けるであろう。そのとき、君達は『糞便とは何であるか』を明確に答えることができるだろうか。君達の先輩の中には、『糞便』を上手に説明できずに退学して行った者が何人かいる。また、あまりにリアルに描写したため、石をぶつけられて怪我をした者もいる。そして、最近の傾向であるが、多くの人が恥ずかしがって『糞便』の意味を相手に説明しないらしい。それどころか、入学後に『糞便』という言葉を一切口にしなくなったり、自分が糞便学科に在籍していることを隠す生徒も増えているそうだ。
 本当に情けないことだ。どうして恥ずかしがる必要があるのだ。『糞便』という言葉のどこが恥ずかしいのだ。糞便の研究は将来のバイオテクノロジーの核となるものだ。恥ずかしがることなど何もない。
 もっと誇りを持て! 胸を張って正々堂々と『私は糞便学科の学生です』と言おうではないか! 力いっぱい『糞便! 万歳!』と叫ぼうではないか!」

 学長の名演説を聞き、糞便学科の新入生達は皆、感動した。女子学生の中には涙ぐんでいる者もいる。
 ひとりの生徒が席から立ち上がって声を張り上げた。
「みんな、俺達は誇り高き糞便学科の学生だ! 糞便万歳!」
 すると、糞便学科の学生全員が一斉に立ち上がって大声で叫び始めた。
 そうだ! そうだ!・・・・
 糞便万歳! 糞便万歳!・・・・

 この例文からして既にかなり異常かも知れませんが、とりあえず、「糞便」を「ウンチ」に換えてみます。

 大学の入学式で、学長は理学部ウンチ学科の新入生達に向かって述べられた。

「理学部ウンチ学科への入学、おめでとう。君達はウンチ学科の学生として、これからの4年間、ウンチの研究に没頭することになる。是非とも精一杯がんばってくれたまえ。
 さて、非常に残念なことではあるが、世間には『ウンチ』と聞いても、何のことだかよく分からない人が今だにたくさんいる。したがって、これから君達は『ウンチとは何ですか?』という質問を何度となく受けるであろう。そのとき、君達は『ウンチとは何であるか』を明確に答えることができるだろうか。君達の先輩の中には、『ウンチ』を上手に説明できずに退学して行った者が何人かいる。
また、あまりにリアルに描写したため、石をぶつけられて怪我をした者もいる。そして、最近の傾向であるが、多くの人が恥ずかしがって『ウンチ』の意味を相手に説明しないらしい。それどころか、入学後に『ウンチ』という言葉を一切口にしなくなったり、自分がウンチ学科に在籍していることを隠す生徒も増えているそうだ。
 本当に情けないことだ。どうして恥ずかしがる必要があるのだ。『ウンチ』という言葉のどこが恥ずかしいのだ。ウンチの研究は将来のバイオテクノロジーの核となるものだ。恥ずかしがることなど何もない。
 もっと誇りを持て! 胸を張って正々堂々と『私はウンチ学科の学生です』と言おうではないか! 力いっぱい『ウンチ! 万歳!』と叫ぼうではないか!」

 学長の名演説を聞き、ウンチ学科の新入生達は皆、感動した。女子学生の中には涙ぐんでいる者もいる。
 ひとりの生徒が席から立ち上がって声を張り上げた。
「みんな、俺達は誇り高きウンチ学科の学生だ! ウンチ万歳!」
 すると、ウンチ学科の学生全員が一斉に立ち上がって大声で叫び始めた。
 そうだ! そうだ!・・・・
 ウンチ万歳! ウンチ万歳!・・・・

 もう何だか訳が分からなくなってしまいました。
 これ以上例を挙げても、誰も読んでくれないのは明白なのでもうやめます。
 それでは皆さん、さようなら。

作者の
コメント
これを書き終えたとき、くだらない、と思いましたが、今再び読み返してみても非常にくだらないと思います。くだらないためか、コメントは書かれませんでした。
(作者:フヒハ)

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