前置き パソコン通信で応募、選考を行うP文学賞のフォーラムに書きこんだメッセージ。


 日本を代表する英和辞典

  友人が高価な英語辞典を買ったというので、さっそく見せてもらいに行きました。
  それは「ランダムハウス大英和辞典(第2版、小学館)」というやつで、収録語数が40万という英和辞典としては非常に立派で、かなり格調高いものでした。
  私には子供の頃から辞書や辞典などを見ると、つい卑猥な単語をひいてしまうという悪い癖があります。その英語辞典を手に取ると私はすぐにfuckを初めとした卑語の探索及び吟味を始めたのです。
  その辞典は、さすがに「日本を代表する英和辞典」と自画自賛しているだけあって、私の知らない卑語が数多く収録されており、私自身、かなり勉強させられました。

  私が初めて知った語の中に、piss fuckという単語があります。piss及びfuckは両方とも、英語では非常に基本的かつ初歩的な卑語で、これらを知っている日本人もかなりいます。でも、この2つの単語をつなげてできたpiss fuckという語の意味を知っている人は非常に少ないのではないでしょうか。
  もっとも、このpiss fuckという単語には〔米俗〕というアメリカの俗語という意味を示す略語が付けられているので、アメリカの一部でしか通用しないような、取るに足らない、まったく役に立たない単語のようです。必死になって覚える必要などこれっぽっちもありません。
  では、どうして私がこのどうでもいい卑語の話題を取り上げたかというと、その訳語が気になったからです。

  ランダムハウス大英和辞典では、piss fuck を以下のように説明していました。
piss fuck 〔米俗〕 女性の同情でさせてもらったセックス、お情けの一発

  「この訳のどこが気になるの?」と疑問に思う鈍感な方もいらっしゃるかもしれませんので、これから説明いたします。
  私が興味を抱いたのは、「小便」を意味するpissと「性交」を意味するfuckが連結されてできたpiss fuckという単語がどうして上記のような意味になるんだ? などという低レベルのことではありません。2つの単語から構成される言葉の意味が、それぞれの単語の意味から想像できないものになるという例は、英語に限らず日本語にも数多くあります。
  また、「『女性の同情でさせてもらったセックス』なんて、あまりにも情けない、と感じたのですね」などと思った方がいらっしゃるかもしれませんが、私が問題にしたいのはそんな野暮なことではないのです。
  さらには、「『女性の好意でさせてもらったセックス』のほうが、まだ自尊心が傷つかないよね」などと訳の分からない持論を展開される方もいるかもしれませんが、そんなこと私にはどうでもいいのです。

  私が気になったのは、訳語の後半にある「お情けの一発」という部分です。
  説明するまでもなく、この「お情けの一発」というのは、「女性の同情でさせてもらったセックス」の言い替えです。
  これを、分かりやすく等式で表すと、

     「女性の同情でさせてもらったセックス」=「お情けの一発」ということです。

  ここで数学が得意な人は気付くと思いますが、この式は、次の2つの式に分割することができます。

     (1) 「女性の同情でさせてもらった」=「お情けの」
     (2) 「セックス」=「一発」

  これでやっと皆さんも、どうして私が気になったのかが分かったでしょう。やはり、「セックス」=「一発」という等式には誰もが首をかしげるところです。
  確かに、程度の低い男の会話の中では、「セックス」の意味で「一発」という言い回しが頻繁に使われています。しかし、この「一発」という俗語が、「日本を代表する英和辞典」の中に見られるとは、まったく思いもしませんでした。
  ランダムハウス大英和辞典の編集委員には、東京大学の名誉教授といった「英語の権威」達の名が連ねられています。
  執筆・校閲者(専門語を含む)は名前だけが記され、肩書は書かれていませんが、間違いなく英語やそれぞれの専門分野に精通した、多くの人々から尊敬されている立派なスペシャリストの方々のはずです。
  いったい、この中の誰が、「お情けの一発」などという、強烈な訳語を思い付いたのでしょうか?
  英文校閲者の外国人達は、ハーバード大学、オックスフォード大学といった超有名大学の博士号取得者ばかりです。これら外国人博士達は、この「お情けの一発」という語を見て何もクレームをつけなかったのでしょうか?
  辞典の校正者や印刷業者は、この「お情けの一発」という言葉を見て、どう思いながら仕事を続けていたのでしょうか?
  「私は英語を必死に勉強して、将来は通訳になるわ」という大きな夢を両親に話すと、母親が「それなら立派な辞書を今のうちから一冊くらいは持ってなくちゃね」と言ってランダムハウス英和大辞典を買ってくれ、嬉しくなってさっそく適当なページを開いてみたところ、最初に目に飛び込んできた語句がこの「お情けの一発」であった場合、この純朴かつ夢多き女子中学生は、これから本当に英語を必死に勉強し続けるのでしょうか?
  また、文法にやたらにこだわる日本の英語教師は、この「『セックス』=『一発』」という等式を見て、
「おや? 『セックス』は一発、二発と数えられる名詞だったのか? これはしまったなあ」
と、何だかよく訳の分からないことを口走り、いままで生徒に教えてきた「『セックス』は数えられない名詞だから、回数を明確にするときは、a piece of sex、two pieces of sex・・・というように言うんだ」という、とんでもない理論を突如変更し、翌日の教室において、「a sex 、two sexs・・・とも言える」などと言って、さらなる墓穴を掘るのでしょうか?
  最後に、「『一発』という訳では、ピストンの『一行程』だけのようで、これだけでは絶対にイカない」という、まったくもって理解に苦しむことを言い出す人が、私以外にもいるのでしょうか?


作者の
コメント
本来はフォーラムの趣旨と関係ないことを書くとシスオペという管理人から警告を受け、メッセージが削除されますが、それを未然に防ぐために原文には以下の文章を最後に追加してあります。

○ あとがき
いままで長いこと述べてきましたが、いずれにしても、このフォーラムにおいて、「私の妹は現在入院中で、手術をしなければ助かる見込みはありません。しかし、私の家は貧乏であるため、手術費用の50万円をどうしても払うことができません」などというメッセージをアップして、「選考委員の同情で与えてもらったP文学賞、お情けの授賞」を狙うなどという見苦しいことは絶対にしたくありませんね。

(作者:フヒハ)

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