前置き 1993年頃、大手パソコン通信の掲示板に書きこんだメッセージをホームページに載せるために書き直したメッセージ。


NHK語学講座のテキスト


  英語を一生懸命勉強しているのにまったくしゃべれない。このような方は日本に数千万人いると言われています。上達しない理由は簡単です。勉強の仕方が間違っているからです。
  一番いけないのがNHKのラジオやテレビの語学講座。毎年毎年たくさんの人々が初回号である4月号のNHKテキストを買います。続けて5月号を手に入れる人はちょっぴり減りますがまあまあ売れます。6月号となるとさらに減りますが、それでもそこそこは買われます。しかし7月号のテキストを買う人は滅多にいなくなります。3ヶ月が一般の人間が我慢できる限界だからです(「3ヶ月坊主」といわれる所以)。7月号のNHKテキストを持っている人は変人と考えて間違いありません。
  あなたの友人にNHK英語講座7月号のテキストを最近買ったという人がいたらすぐに友人の家に行き、ゴミ箱をあさってみてください。書店で7月号のテキストを購入したときのレシートを探し出します。友人は絶対にNHK英語講座7月号のテキストのみを単品で買ってはいません。同時に必ず何か別の本を買ってるはずです。それはH本である可能性が非常に高い。
  では、なぜH本を手に入れるのにNHKテキストを買っていたのでしょうか。もちろん本当にほしかったのはH本であってNHK英語講座7月号では決してありません。
  あなたが男だったらわかりますね。本屋でH本だけを買うのは恥ずかしいからです。NHKテキストはH本を買う恥ずかしさを和らげるための「添え本」として買われているのです。
  では、なぜ、NHK語学テキストがH本の「添え本」として一番よく売れているのでしょうか。
理由は3つあります。
  まず第一に安いことです。NHK語学テキストはいまだに数百円しかしません。どってこたない金額です。千円のH本を買うのに十万円のブリタニカ百科辞典全集を「添え本」として買う人はまずいないでしょう。
  第二の理由はその効果です。本屋に居合わせた他の客は、あなたが持っているNHK語学テキストを見ても自分がそれで英語をマスターできなかった苦い経験があるため「そんなんで勉強しても無駄だよ」とつぶやきながらそっぽを向いてくれます。H本を買うのに、みんなの注目を嫌でも集めてしまう「アダルトビデオ通信」なんかを「添え本」として使ったのではまったく意味をなしません。NHKテキストが最適です。
  三つめの理由はアクセスの良さです。NHK語学テキストというものは馬鹿な不良達が欲しがるわけがなく、万引きされる可能性がまったくないため(値段が安いというのもあるのでしょうが)たいていの本屋では店の外に置かれており、誰でも簡単に手に取ることができます。店外でNHK語学テキストを一冊手にして店に入ります。すると、こいつは絶対にスケベな本を買いにきたなと顔を見ただけで一発でバレてしまうような人相の奴でも、語学テキストを持って店に入れば、この人は普通の本を買いに来たのだなと勘違いしてもらえます。そして、他の客の警戒が緩んだところでH本の陳列棚に近づき、前々から狙っていた二千五百円の「Eカップヘアヌード大全集」を棚から引き抜くのです。待望のH本を手にしたら表紙のねえちゃんの裸の部分にNHK語学テキストをあてがい、レジに直行します。ここで「H本というのは普通A4サイズで、A5判のNHK語学テキストより大きいので表紙全部を隠せないのではないか?」という疑問を持つ方がいらっしゃると思いますが、大丈夫です。ねえちゃんの体さえ隠されていればいいのです。H本のタイトルや女性の顔が見えていても誰も関心を持ちません。NHKテキストのタイトル「NHKテレビ英語講座7月号」といった文字のほうがいち早く目に飛び込んでくるので、その時点で一般大衆は目を背けます。
  H本を手にしてからレジに行くまでの身の振り方には注意が必要です。焦ってつまづきH本を落としてしまわないように。一番のハイライトであるFカップ女性の巨乳のページが床の上で開いてしまったら大変です。そうならないようH本とNHKテキストをしっかりと抱え(H本に7割、NHKテキストに3割の力の配分で握るのが理想)、レジにゆっくりと落ち着いて歩を進めます。このとき、俺は語学テキストだけ持っているんだと自分に言い聞かせながら歩くことが大切です。そうすれば、変に緊張しなくて済み、自然体でレジに向かうことができます。
  レジに着いてからも気をゆるめてはいけません。特にレジが混んでいる場合は注意が必要です。レジで素直にH本とNHKテキストの2冊を店員に差し出してしまうと、受け取った店員はおもむろに上の語学テキストを取り上げて裏に書かれている値段を読みにかかるので、下のH本の表紙は公衆の面前にさらされます。ここでは、H本の裏を上にして店員に差し出すべきなのです。店員はH本の裏の値段を確認したら横にずらし、NHK語学テキストの値段を見に行くことになり、ねえちゃんの豊満な裸体がレジに並んだ人々に見られることはありません。中にはH本の裏表紙を見ただけで一発でH本だとわかる人がいますが、そういう人は必ず自分もH本を手にしてレジの前に並んでいるので意識的に無視してくれます。H本の表紙が上にならないまま店員に紙袋に2冊の本を入れてもらえれば一見落着です。
  店員がかわいい女の子だった場合には別の問題が湧き起こります。たとえ店員とはいえ若い女性にH本を差し出すのは心苦しいものですね。この対策として、多くの男性が普段行っているであろうごく一般的やり方を一つだけ紹介しておきます。2冊を差し出す前に、まずNHK語学テキストをぺらぺらとめくり、「あれ、7月号はもう買ったかなあ?」と店員に聞こえるくらいの大きさの声でひとりごとをつぶやきます。しばらく考える振りをして「やっぱり買ってないや」と言い、NHKのテキストは自分で使用するものであることを周りの人にアピールします。次に、ポケットから紙切れを取り出し、再び店員に聞こえるように「あの野郎、字が汚くて読めねえじゃないか」と言い、続いて「でもまあこれで間違いなさそうだ」とつぶやき、いかにもH本は友人に頼まれてついでに買ってやるという振りをします。
  しかし、残念ながら書店で働いている女子店員というのは、多くの男が毎日この手を使うので、もうすべてお見通しです。H本は買いに来た本人がほしかったものだと熟知してます。
  そこで私はあなたに次のことをお勧めします。書店にいる客全員に聞こえるくらいの大声で堂々とこう言い放ちます。
「すみません。実は私はこのH本がほしくてここに来たのであり、NHK語学テキストは『添え本』として買うのです!」
  レジの女子店員は、あなたの素直さに心を打たれ、「こんな正直な人はいないわ」と言って感動し、とても店頭には置くことのできないもっと露骨な写真の入ったH本を「おまけ」で一冊プレゼントしてくれるかもしれません。
  あるいは、あなたの勇気に感銘を受けた女子店員があなたに結婚を前提とした交際を申し込んでこないとも限りません。どこに幸運がころがっているかわかりませんね。

  以上でNHK英語テキスト7月号を持っている人というのがだいたいどんな奴だか理解できたと思います。が、それじゃ、翌年の2月号とか3月号を持ってる人は何なんだ?と疑問に思っている方も多いことでしょう。
  8月号、9月号あたりまでは相変わらず、書店で「添え本」として購入されているのですが、2月号、3月号となると、おそらく別なことに悪用しているはずです。
  再び、その人の家のゴミ箱をあさってみてください。今度のレシートは、書店のレシートではないはずです。もっとエスカレートしているに違いありません。たぶんレシートは、大人のおもちゃ屋とかいったいかがわしい店のもののはずで、NHK語学テキストを「添え本」として何か別のものを買ってるはずです。
  でもこれ以上友人の私生活に深入りするのはやめましょう。友人を変態と思うようになってしまいかねません。間違っても押し入れなどを探索しないでください。口をぽっかり開けた女性の人形かなんかが出てきたら大変です。

○ コメント
「うちの息子は、ロシア語講座3月号を持っています。大丈夫でしょうか」という相談のメールを50代の主婦の方から受けました。この方の息子さんの場合、残念ですが完全な手遅れです。


作者の
コメント
私もNHK語学テキストにはさんざんお世話になりました、色々な勉強のために。
(作者:フヒハ)

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