前置き 1992年頃にパソコン通信の掲示板と語学フォーラムに書きこんだメッセージを、某短編小説文学新人賞に応募するために書き直した作品。


 短期修得実用フランス語講座(男性編)

ゴンザレス橋本 著  

はしがき

 みなさん、こんにちは。私は、東京外国語大学名誉教授で「日本におけるフランス語研究の第一人者」と呼ばれ多くの人から尊敬されているK氏を二年前の夏に営団地下鉄表参道駅の改札前で見かけたことのあるゴンザレス橋本と申します。名前を聞いて私を日本人とフランス人のハーフだと思ったかもしれませんが、はずれです。父と母は日本人ですし、東京で生まれ育った私は当然100%純粋な日本人です。原付バイクを買ったのでナンバープレートをもらいに区役所に行ったとき、玄関前の道端に落ちていた犬の糞をうっかり踏んづけてしまい、むしゃくしゃしていたので発作的に名前を変えてしまっただけです。
 さて、日本では国際化が一段と進み、近頃は、英語以外の外国語、とくにフランス語を話せるようになりたいという方が非常に増えてまいりました。これにともない、どこの書店にもフランス語の入門書が数多く見られるようになりました。フランス語教育に深く携わっている私としてはうれしい限りです。
 しかしながら、市販されているフランス語の学習書には大きな問題があります。コミュニケーションを軽視しているものばかりなのです。日本の英語教育の欠点をそのまま受け継いでしまっていると言ってもいいでしょう。このようなテキストで勉強を続けてもフランス語の会話能力は絶対に向上しません。このことは、中学と高校の6年間、大学を含めると10年もの間英語を勉強しているにもかかわらずまともな英語を話せる日本人がほとんどいない点から見ても明らかです。
 また、語学テキストというのは、どういうわけか男女共通のものばかりです。世界中のあらゆる言語においては、多かれ少なかれ、男言葉、女言葉というのが必ず存在します。フランス語とて例外ではありません。にもかかわらず、日本では、男女両性を対象にした学習書しか売られていません。これはおかしなことです。男性が「困ったわ。紙がないのよ。手でふこうかしら」などと女性のように話したら変です。また、女性が「俺だったら、乾くまで待った後、ピンセットでぺろっとはがすぜ」などと男みたいにしゃべったりしたらやはり異常だと言わざるをえません。語学テキストには男性用、女性用があるべきなのです。
 以上のような欠点、矛盾に満ちあふれたフランス語教材しか売られていない日本の現状を憂い、「フランス語教育のパイオニア」とひとりでもいいから呼んでほしい私が当テキストを執筆、編集いたしました。
 本文は初級編、中級編、上級編の3部から構成されており、学習していくにしたがって自分の実力がぐんぐん上がっていくのが目に見えてわかるようになっています。今回のものは男性用ですが、近日中に女性用も発売される予定です。
 最後に、当テキストが、日本におけるフランス語教育の、とかく文法・読解偏重に流れがちな方向を修正し、そしてコミュニケーションに重きを置いた正しいフランス語教育が広まっていくための、ひとつの礎石となることを心から願っております。


第1部:初級編

レッスン1:初めて習うフランス語

例  文
  1. Tu ne peux pas metriser le francais avec ta tete.
    (訳:君の頭じゃ、フランス語をマスターするのは無理だね)
  2. Il vaut mieux se renoncer a etudier le francais le plus tot possible.
    (訳:フランス語を諦めるのは早いに越したことはない)
  3. Tu ne peux pas parler anglais, et tu veux parler francais ? Va shier !
    (訳:英語も話せないくせに、フランス語をしゃべりたいだと。ふざけんな!)

○ 解 説
 新しい外国語を初めて習う場合は、単語の意味や文法などを気にせずに、とにかく文章を暗記することです。上の例文が口をついて出てくるようになるまで、繰り返し練習しましょう。3つの例文を完全にマスターしたらレッスン2へ進みます。

レッスン2:挨拶の表現

例  文
  1. He ! Salaud !
    (訳:おい、こら!)
  2. Reponds !
    (訳:返事をしろ!)
  3. Trou du cul !
    (訳:この、大バカ野郎!)
  4. Va te faire foutre !
    (訳:ファック・ユー!)

○ 解 説
 挨拶は言葉の基本です。しっかり覚えて、フランス人と会ったときにまごつかないようにしましょう。挨拶の表現は比較的短いので覚えやすいですね。それではさらに実践的なレッスン3に進んでください。

レッスン3:パリのシャルル・ドゴール国際空港で

例  文
  1. Qu'est-ce que je fais si on trouve ma drogue.
    (訳:麻薬が見つかったらどうしよう)
  2. Je me demand si on peux apporter un magasine aussi indecent au Japon.
    (訳:こんなエッチな本を日本へ持って帰ることができるかなあ)
  3. Helas ! J'aurais du draguer l'hotess de l'air.
    (あーあ。あのスチュワーデスをナンパしときゃよかった)

○ 解 説
 フランスの空の玄関口であるシャルル・ドゴール空港で、言葉が通じなくておろおろする姿は非常に見苦しいものです。その時々の状況を空港係員に的確に説明することが大切です。

 初級編はここまでです。言葉は習うより慣れろで、実際に使えそうな表現を数多く身につけてしまうことが上達への近道です。この初級編を終えた時点で、フランス語をマスターするために必要な単語、表現の3分の1を習得したことになります。あとは辛抱強く続けることです。中級編からは例文が会話形式となり、言語の基本であるコミュニケーションがより重視された内容となります。
 なお、初級編の例文に使用した1部の表現がNHKラジオフランス語講座4月号から無断で借用したことに対し、この場を借りてお詫びさせていただきます。また、本講座をマスターしてフランスに行かれ、帰国できない事態に発展したとしても、NHK及び私は責任を負いかねますのであらかじめ御了承下さい。


第2部:中級編

レッスン4:パリ、シャンゼリゼ通りでのショッピング

例  文
<あなた>
Ou est-ce-que je prend de la drogue ?
(訳:麻薬はどこで手に入るかな)
 <通行人> 
La-bas.
(訳:あそこだよ)
 <あなた>
2 grammes de marihuana, s'il vous plait.
(訳:マリファナを2グラムください)
 <隠れていた警官>
Police ! Nous t'arretons.
(訳:警察だ! おまえを逮捕する!)
 <あなた>
Merde !
(訳:や、やばい!)
 ○ 解 説
 海外旅行の大きな楽しみのひとつにショッピングがあります。お店で言葉が通じなくて、高い買い物をしてしまったのでは、旅行全体の後味が非常に悪いものとなってしまいます。日本では考えられない価格で高級ブランド品を買うこと、これが海外でのショッピングのこつです。

レッスン5:警察署で
例  文
<刑事>
Pourqoui es-tu venu a Paris ?
(訳:おまえは、一体、何しにパリに来たんだ)
<あなた>
Eh... Eh...
(訳:えーと・・・えーと・・・)
<刑事>
Dis pourquoi vite ! Si tu ne parles pas, nous te renvoyons au Japon !
(訳:さっさと言うんだ! 言わねーと日本に強制送還だぞ!)
<あなた>
Les oreilles du roi sont celles d'ane.
(訳:王様の耳はロバの耳)
<刑事>
Envoie-le a l'hopital !
(訳:こいつを病院に連れて行け!)

○ 解 説
 普段はあまり接したくないのですが、パスポートの紛失、盗難、交通事故などの際、いやでもお世話になるのが警察です。言葉の行き違いで自分がどのように困っているのかをわかってもらえず、泣き寝入りしてしまうようなことがないよう、しっかりとこのレッスンで警察での対応の仕方を身につけてください。

レッスン6:病院で

例  文
<医師>
Vous faites semblant d'etre fou ?
(訳:あなたは気が狂ったふりをしてるだけでしょう?)
<あなた>
Ma tete est PappaRa Paaa.
(訳:私の頭はパッパラパー)
<医師>
Cet homme ne ment pas.
(訳:この方は嘘をついていない)

○ 解 説
 海外において、いちばん困るのは病気になったり、けがをしたときです。自分の病状を医師にフランス語で的確に説明し、正しい治療を受けられるよう、自信がつくまでこのレッスンの例文を暗記し続けてください。なお、看護婦が美人であった場合は対応の仕方が当然変わってきます。

 どうです。これで中級編も終わりです。今回は科学技術に関する専門用語などがたくさん出てきたため、みなさんもかなりお疲れのことでしょう。今晩はゆっくり休んで次のフランス語講座上級編のための鋭気を養ってください。
 なお、この中級編に関しましては、フランス語教育の世界的権威でいらっしゃるパリ・ソルボンヌ大学のジャン・ピエール・ルブラン教授に内容を詳細に検討していただき、御教示を得ようと思ったのですが、会ってくれませんでした。


第3部:上級編

レッスン7:パリの映画館で(注:フランス映画では女性の全裸が平気で出てくる)

例  文
<あなた>[興奮して]
C'est bien, bien, les cinemas francais...
(訳:いいなあ・・・いいなあ・・・フランスの映画は・・・)
<隣に座っているパリジェンヌ>[首をかしげて]
・・・ ?
(訳:・・・?)
<あなた>
Debout, c'est puor cela, je ne peux pas me lever.
(訳:たってしまって、席からたつことができないよ)
<隣のパリジェンヌ>
Je ne comprends rien a son francais
(訳:この人の言ってること、どういう意味なのかさっぱりわからないわ。)
<あなた>[チャックを下ろしながら]
Ca veut dire...  Voila !
(訳:それはね、こういう意味だよ・・・、ほら)
<隣のパリジェンヌ>
Mon Dieu !
(訳:キャー!)

○ 解 説
 字幕なしでフランス映画を楽しむことができるようになったら、あなたのフランス語は完成間近です。あとは上の例のように映画館に通うなり、知らない人にどんどん話しかけるなりして、フランス語を完全にマスターして下さい。

レッスン8:再び警察で

例  文
<警部>
Si on fait ca meme en France, on va s'arreter.
(訳:いくらフランスでも、あんなことをすれば警察に捕まるんだぞ。)
<あなた>[昔、ビートたけしがやったのと同じジェスチャーをしながら]
KOMANETI ! KEN MOTU ! AN DORIANOV !
(訳:コマネチ! 堅 物! アン ドリアノフ!)
<警部>
Met-le en prison. Ne sort-le jamais.
(訳:こいつを刑務所へぶち込んどけ! 一生出すな!)

○ 解 説
 フランス語をほとんどマスターしたといっても、それはやはり外国語。自分の考えていることをすべて正確にフランス語で言い表すことは難しいものです。適切な単語、言い回しが見つからずに困ってしまった場合は、上記のように世界の共通語であるジェスチャーで言葉を補うのがいいでしょう。

レッスン9:パリ郊外にある刑務所の2人用監房で

例  文
<フランス人のルームメイト>[身長が2メートルくらいで誰が見てもホモ]
Viens, mon petit.
(訳:坊や。こっちへおいで)
<あなた>
Watashiwa Huransugoga Hanasemase--n
(訳:ワタシハ、フランスゴガ、ハナセマセーン )
<ルームメイト>
On n'a pas besoin de langue commune entre des amoureux.
(訳:二人の愛に言葉は要らない)
<あなた>
Ah ! Au secours !
(訳:ギャー! 助けてー!)
<ルームメート>
N'aie pas peur, mon petit.
(訳:何も恐がることはないんだよ、坊や)
<あなた>
Aie ! ...Eh bien ! ...mais, c'est pas si mal.
(訳:痛い! ・・・ん? そんなに悪くないや)

○ 解 説
 とっさの場合にフランス語が出てこないということがよくあります。そういったときには、上の例文のように日本語で答えてもいいじゃないですか。相手は言葉がわからなくても、表情などからあなたの言いたいことが理解できるものです。

 「短期修得実用フランス語講座(男性編)」は、これで終わりです。ここまで来られたみなさんのフランス語の実力はかなりのものになっているはずです。ちょうど11月にフランス語同時通訳検定試験がありますので、チャレンジなさってはいかがでしょうか。
 なお、本テキストの初級編から上級編で使用した全文例に関しましては、自分では自信があったのですが、万が一間違った文章をみなさんに教えてはいけないと思い、念のため、フランス語普及協会パリ本部の理事長でいらっしゃるジュリアン・ガブリエル氏に、お忙しい中、すべてにわたってじっくりと読んでいただき、おもいっきりぶん殴られました。


作者の
コメント
実際に応募したが、選考委員であるプロ作家に真意を理解されずに落選。
(作者:フヒハ)

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