前置き | 1992年頃大手パソコン通信ネットの掲示板に書き込んだメッセージを少し書き換えた。 |
卑猥写真に注意 |
プリンターの値段は一昔前に比べ驚くほど安くなりました。以前は高嶺の花であったレーザージェットプリンターが数万円で手に入るようになり、自宅で高画質の画像を印刷して楽しむ人も増えてきました。 しかしながら、細部まで鮮明に写ってないと納得のいかない猥褻写真はほんの少しでも性能の良いプリンターで印刷したいものです。そんなわけで、家にプリンターがあっても猥褻デジタル写真をMOやCDに保存して、会社にある超高性能プリンターで印刷している者が数多くいます。 私の勤める会社にもいました。 3日前のことです。毎日昼休みには外に昼食を食べに出ている後輩のNが、その日はなぜか「今日は仕事が忙しいからコンビニでパンを買ってここで食べます」といってみんなについて来ません。Nがさほど忙しくないことを知っていた私は、これは何かある、とにらみ、オフィスから出て行くふりをしてドアの影に隠れてました。 Nはしばらく机に向かっていました。やがて、みんなが部屋から出て行くのを見届けると、机の脇に置いてあったかばんからCDらしきものを取り出し、自分のパソコンのCDドライブに挿入しました。あたりを見回した後、しばらくマウスを動かした後に席を立ち、すぐにオフィス奥にあるレーザープリンターのところへ小走りで向かいました。 ぴんと来た私は、忍び足で彼の後を追い、プリンターの斜め後ろにあるついたての陰に隠れました。 Nはオフィス内をきょろきょろと何度も見回し、明らかに見られていないか警戒してました。 すぐにNの前のプリンターからは、予想通り、目を背けたくなるような卑猥写真が現れ始めました。 私はすかさずNの背後に接近し、耳元に顔を近づけて「わ!」と大声で叫んでやりました。 後で聞いたところでは、Nはその時、右心房の弁が数秒間開かなくなったそうです。 恐る恐る振り向いたNの顔は真っ青でした。 私とわかると、すぐに何かを嘆願するような物悲しい表情を浮かべました。 ここは小学校じゃないので、私は「見ーたぞ、見たぞ。せーんせいにいってやろ!」などというような幼稚なことは言いませんでした。 また、ここが会社だからといって、私は「この件については上司と相談する必要がある」などというような悪徳上司ではないし、「口止め料として1万円でどうだ?」などという取り引きを申し出る薄汚い人間でもありません。 私は、ただひとこと、「おまえは確か、受付のA子が好きだったな」とつぶやいてその場を後にしました。向かった方向は受け付けです。 「先輩。待ってください!」 案の定、Nは私を追いかけてきました。 「お願いです。この写真のことはA子には言わないでください」 Nは必死でした。 「お願いします!」 涙ぐんでいました。 私は日頃からNのことを少々生意気な奴だと不愉快に思っていたので次のように言ってやりました。 「俺はA子とちょっと世間話をしたいが為に受付に行くんであって、今見たことをA子に知らせるという目的で受付に行くんじゃない。だがしかしだな。話の成行きで君のことが話題に出た場合は、この印刷の件についてA子に口をすべらせてしまわないという絶対的な保証はさしあたって見あたらない」 弱みを握っているという優越感のため言葉がうわずってしまい、かなり怪しい日本語でした。 「一生のお願いです」 Nは私の前でひざまづき、床に顔をつけて泣き出しました。 私は涙もろいため、思わずもらい泣きしてしまいました。 二人でしばらくの間、肩を抱き合って涙を流し続けた後、そろそろ他の社員が昼食から帰ってくる時間となったため、即座に、A子に今回の件について話さない代わりに私がプリントアウトした猥褻写真を頂戴することで合意し、涙を拭いてそれぞれが自分のデスクに戻りました。 その後は二人とも何事もなかったかのごとく仕事に励み、Nは定時の6:00に、私はちょっぴり残業して6:30ころ会社を後にしました。 オフィスから出ると、外はもう真っ暗で、通りは帰宅を急ぐサラリーマンやOLでいっぱいでした。 その夜、背広のポケットに入れておいた猥褻写真を妻に見つかってしまいました。本棚の後ろに隠しておいたH本を発見されたという過去もあり、右心房の弁が開かなくなるほどのショックはありませんでしたが、悪いことをするとバチが当たるということはあながち嘘でないことを実感しました。 |
作者の コメント |
こんなくだらない文章を毎週末書いてました。暇だった昔に戻りたい。 (作者:フヒハ) |